8. 会計事務所の将来
本調査では、自社の強みや特徴、クラウド・AI (Artificial Intelligence)・DX (Digital Transformation)などへの取り組み、今後の方向性などについて、自由記述で回答を得た。
これらの回答からは、会計事務所が思い描く将来像が浮かび上がってきた。
近年、クラウドやAIといった技術の進化、またデジタルを前提とした事業や業務のあり方の再定義であるDXにより、会計事務所の業務は大きな転換点を迎えている。
記帳業務など定型的な業務は自動化が進み、「将来的に会計事務所の仕事はなくなるのではないか」との見方も一部に存在する。
しかしながら、今回の調査結果から読み取れるのは、そうした変化を単なる脅威とせず、むしろチャンスと捉える前向きな姿勢である。
定型業務はテクノロジーを最大限に活用することによって自動化する一方で、人間には「顧客との関係構築」「経営判断のサポート」など、より高付加価値な業務が求められているという認識は各社に共通している。
もっとも、調査対象の会計事務所17社では、どのようにテクノロジーを活用するか、また同時にどのように高付加価値化するかにおいても一様ではなく、それぞれの強みであり、それに基づいた戦略が色濃く反映されている。
- AIやRPA (Robotic Process Automation)※16を駆使して業務効率を高める(例:RPA自社開発、全社デジタル化)
- クラウドを活用した在宅体制の構築や全国採用の実現
- 中小企業支援や起業家支援に特化し、地域密着型のコンサルティングを強化
- 国際税務やIPO支援など高度専門領域に注力
- 人材育成とテクノロジーを組み合わせた新たなビジネス創出を模索
上記は一部の例であるが、方向性は多様であり、それぞれが自社の強みと戦略に沿って未来を構想していることが伺える。
一方で、多くの法人が今後の方向性として共通に挙げたのが「信頼」「人にしかできない価値の提供」「中小企業のパートナー」としての進化であった
テクノロジーの活用による効率化の先にあるのは、単なるコスト削減ではなく、顧客との関係の深化であり、社会に対して果たす役割の拡大である。
会計事務所は、経営の傍らに寄り添い、時代に応じた最適なアドバイスを行うプロフェッショナルである。
デジタルやAIが当たり前のように活用される時代の到来は、その役割の終焉ではなく、再定義の契機と捉えるべきであろう。
- ※16
- ソフトウェア上のロボット(つまり自律的に動くソフトウェア)を使って、データ入力やコピー&ペーストなどの定型的なPC作業を自動化するシステム。