大規模会計事務所の実態調査レポート 2025

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7. 他業種との比較

本実態調査レポートは、会計事務所で働くことに多少なりとも関心を有している方々の参考になることを目指している。
この観点から、就職及び転職の検討において、会計事務所と比較されることの多い業種/業態について、会計事務所の立場からそれぞれ類似点と相違点の回答を得た。

7-1. 一般企業の経理業務

まず、会計事務所と一般企業の中での経理業務とで、どのような類似点があるのか、逆に相違点があるのかを分析した。

共通点としては、会計・簿記の知識を持ち、数値を扱う専門職であるという点が挙げられた。
会計事務所であっても一般企業の経理業務であっても、簿記はもちろん、会計全般の知識を求められる。
なおかつ会計を通じて、会社の現況を数値として明確に示すことが役割である。
また、経営判断を支えること、すなわち会社の現況を数値として明確に示すことにより、経営者の意思決定を支援することがミッションであることも共通点として挙げられた。

一方で、相違点としてはやはり一般企業の経理は見える範囲が自社にだけ限られるということ、これに対し、会計事務所は多数の業種であり企業に横断的に関与するということが多く指摘された。
一般企業の経理は自社の事業や内部管理に深く関与する一方で、会計事務所は複数の企業を通じて、マクロ感であり、ベンチマーク的な視点を得ることができる。

また、会計事務所は外部の専門家として、申告内容への法的責任を含め、明確な責任を伴うことを相違点とする意見も見られた。
さらに会計事務所は、事業承継やM&Aなど、一般企業の経理では経験することが難しい、より専門的・複雑な領域までカバーすることも相違点として挙げられた。

7-2. 経営コンサルタント

次に会計事務所と経営コンサルタントとの類似点および相違点である。
全体として、もちろん相違する部分はあるが、類似点も多いという回答が多かった。

まず、クライアントの成長を経営者のアドバイザーとして務めるという点に類似性があるという意見が多かった。
ともに、企業の成長を伴走型で支援する、価値を提供する対象が経営者である、経営判断に役立つ提案を行うという意見が見られた。
さらに、クライアントのニーズをヒアリングし提案する、計画をもって業績向上を支援するという提案型の業務であることや、クライアントファーストの課題解決という課題解決型の業務であることに類似性があるという意見も多い。

一方で相違点としては、まず、経営コンサルタントはスポット型であり、短期支援が中心であるのに対し、会計事務所は継続的にクライアントに関わるという点が挙げられる。
また、支援の領域として、会計事務所は、会計という企業の基盤を中心とするのに対し、経営コンサルタントはその先にある個別の論点であるという領域とその深度に違いがあるという意見もあった。
また、会計という企業の基盤を中心とするだけに、クライアントの財務内容を完全に把握していることを会計事務所の強みとする意見もあった。

言うまでもないが、経営コンサルタントには特定の資格を必要としないのに対し、会計事務所には税理士資格が必要であること、また、税理士資格による独占業務があることも明らかな違いである。
もっとも、本実態調査レポートのこれまでの分析を踏まえても、会計事務所の付加価値は独占業務だけから生まれているわけではない。
むしろ独占業務の外に付加価値が広がっており、その観点では、会計事務所と経営コンサルタントに多くの類似性があるのも当然である。

7-3. 金融機関

最後に会計事務所と金融機関との類似点および相違点についても調査を行った。
全体として、類似点もあるが、相違点が多いという回答が多かった。

まず、数字に基づく、具体的には決算書に基づいて企業を分析し、支援するという点に類似性があるという意見が多かった。
また、ともに中小企業にとっての相談相手であるという点も類似点として挙げられた。
経営上の課題や資金繰りの問題などの相談先として機能するという意味では、共通であるという意見であった。

一方で、相違点としては立場の違いが挙げられた。
金融機関は中小企業の相談相手ではありつつも、最終的には金融機関の利益を優先せざるを得ない、これに対し会計事務所は最後までクライアントの利益を優先するという立場の違いである。
また、中小企業と金融機関はどうしても、借り手と貸し手という上下関係にならざるを得ない、それに対し会計事務所は、同じ目線にたつパートナーであるという意見もあった。
さらに関係性の長さについての指摘もあった。
金融機関は人事異動によって担当が変わることが多いのに対し、会計事務所は長期的な関与によって、人ベースの信頼を積み重ねることができるという意見であった。

さらに本実態調査レポートのこれまでの分析を踏まえると、働く立場としては、営業の有無、転勤の有無も大きな差になるものと考えられる。
4-2節(業務の時間配分)で見た通り、会計事務所の総合職が新規営業に割く時間は平均して5%程度に過ぎない。
つまり会計事務所と金融機関では、業務に占める営業のウェイトには明らかな差がある。
また、5-6節(転勤の有無)で見た通り、会計事務所はそもそも転勤がない事務所が半数程度であり、残りの事務所についても、転勤はあくまでも本人の意向を踏まえるとしている。
これに対し、特に広域で展開する金融機関については、転勤は当然必要なものとされる。
つまり会計事務所と金融機関では、本人の意向にそぐわない転勤の可能性が明らかに異なる。

全体の目次
  1. 1. はじめに
    1. 1-1. 調査手法
  2. 2. 会計事務所とは
    1. 2-1. 税理士と公認会計士
    2. 2-2. 個人事務所と税理士法人
    3. 2-3. 有資格者と専門職員
    4. 2-4. 会計事務所と事業グループ
  3. 3. 調査対象会計事務所の基本属性
    1. 3-1. 会計事務所の事業規模
    2. 3-2. 会計事務所の業務
    3. 3-3. 会計事務所のクライアント
    4. 3-4. 会計事務所を構成するメンバー
  4. 4. 会計事務所の総合職の働き方
    1. 4-1. 担当社数
    2. 4-2. 業務の時間配分
    3. 4-3. 勤務形態
    4. 4-4. 労働時間
    5. 4-5. 休日出勤
    6. 4-6. 有給休暇取得率
  5. 5. 会計事務所におけるキャリア
    1. 5-1. 新卒採用と中途採用
    2. 5-2. 未経験者
    3. 5-3. 成長のイメージ
    4. 5-4. 資格取得
    5. 5-5. 研修・教育制度
    6. 5-6. 転勤の有無
    7. 5-7. 離職率
  6. 6. 会計事務所の待遇
    1. 6-1. 新卒入社
    2. 6-2. 中途入社
    3. 6-3. 昇給イメージ
    4. 6-4. インセンティブ
    5. 6-5. 評価制度
    6. 6-6. 福利厚生制度
  7. 7. 他業種との比較(現在地)
    1. 7-1. 一般企業の経理業務(現在地)
    2. 7-2. 経営コンサルタント(現在地)
    3. 7-3. 金融機関(現在地)
  8. 8. 会計事務所の将来
  9. 9. まとめ
  10. 10. 一般社団法人 会計事務所連携協議会について