大規模会計事務所の実態調査レポート 2025

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2. 会計事務所とは

会計事務所とは、一般的に、税理士、公認会計士といった国家資格を持つ専門家が運営・所属し、主に会計・税務・財務に関する幅広いサービスを企業や個人に提供する事業体を指す。
税理士が運営する場合には、「税理士事務所」、公認会計士が運営する場合には「公認会計士事務所」と呼ばれるが、総称して「会計事務所」と呼ばれることが多い。

日本全国には約3万の会計事務所が存在する※2
全国に6万店弱存在すると言われるコンビニエンスストアの半分程度にはなるが、同じく全国に3万店程度と言われる、クリーニング店や学習塾などと同様に、全国に広く、当たり前のように存在する事業所である。

かつては、全国に500程度存在する税務署の近くに多く見られたが、これは税務申告が書面でなされた時代の名残であり、今は税務署の近くという場所への拘りは見られない。

2-1. 税理士と公認会計士

税理士と公認会計士は区別せずに認識されていることも多いが、税理士と公認会計士は異なる国家資格である。

税理士は税理士法に基づく国家資格であり、「税理士は、税務に関する専門家として、独立した公正な立場において、申告納税制度の理念にそって、納税義務者の信頼にこたえ、租税に関する法令に規定された納税義務の適正な実現を図ることを使命とする」とされている。
税理士法では、税理士の業務は税務代理、税務書類の作成、税務相談とされているが、この他税理士業務に付随して、財務書類の作成、会計帳簿の記帳の代行その他財務に関する事務を業として行うことができるとされている。

これに対し、公認会計士は公認会計士法に基づく国家資格である。
公認会計士法では、「公認会計士は、監査及び会計の専門家として、独立した立場において、財務書類その他の財務に関する情報の信頼性を確保することにより、会社等の公正な事業活動、投資者及び債権者の保護等を図り、もつて国民経済の健全な発展に寄与することを使命とする」とされており、公認会計士の業務は、他人の求めに応じ報酬を得て、財務書類の監査又は証明をすること、またこの他、財務書類の調製をし、財務に関する調査若しくは立案をし、又は財務に関する相談に応ずることとされている。

税理士法および公認会計士法に基づけば、税理士は「税務」の専門家、公認会計士は「監査および会計」の専門家ということになるが、実態としては、価値を提供する対象が異なると理解する方が正確である。
すなわち、税理士は、中小企業や個人に対し、税務及びその前提となる会計を中核としたサービスを提供するのに対し、公認会計士は、主に上場企業を中心とした中堅・大企業に対し、監査および会計を中核としたサービスを提供している。
前者は会計事務所として活動することが一般的であり、後者は監査法人として活動することが多い。
なお、公認会計士は税理士試験を免除され、税理士として登録することが可能である。
このため、公認会計士が税理士登録をした上で、中小企業や個人に対し、会計や税務を中核としたサービスを提供することも行われている。

本実態調査レポートで対象とする会計事務所は、税理士登録した公認会計士も含め、税理士資格を持つ専門家が、税務を中核に、会計・税務・財務に関する幅広いサービスを中小企業や個人に提供する事業体を指すものとする。

2-2. 個人事務所と税理士法人

もともと会計事務所は税理士の資格を有する個人が運営する事業所のみが認められていた。
後述するように、現在では法人として会計事務所を運営することも認められているが、現在でも、会計事務所の大半は個人経営である。
令和3年経済センサスにおいて国内会計事務所※3の総数は32,246事業所であるが、このうち26,830事業所(83.2%)は個人経営である。

もっとも、個人経営といっても、事業を行う個人、すなわち個人事業主であり、従業員を雇用していることも一般的である。
上記の26,830事業所の個人経営の会計事務所のうち、事業主だけ(従業者数1名)は5,708に過ぎない。
逆に言えば、個人経営の会計事務所のうち、約8割(78.7%)は、1名以上の従業員を雇用している。
ただし、個人経営の会計事務所の規模は一般的に小さい。
個人経営の会計事務所のうち約7割(70.1%)は事業主を含めた従業者が1名から4名である。
このため、会計事務所というと、事業主である税理士に数名の補助者という小規模事業者のイメージが定着している。
しかしながら個人経営でも、従業者数が50名から99名という規模の会計事務所も、少数ではあるが存在している。

従前は個人経営しか認められていなかった会計事務所だが、2001年に税理士法が改正され、個人ではなく、法人(税理士法人)として会計事務所を運営することが認められるようになった。
税理士法人は2名以上の社員税理士が必要とされる。

現在では、税理士法人は一般的な存在となっており、令和3年経済センサスでは、法人形態の会計事務所が5,416事業所存在する。
税理士法人の規模は個人経営の会計事務所と比較すれば大きい。
従業者が1名から4名の税理士法人は1,210であり、これは税理士法人全体の約2割にとどまる。
税理士法人の従業者数のボリュームゾーンは5名から29名であり、この規模の税理士法人は3,785と全体の約7割(69.9%)に達する。
税理士法人の中には、従業者数が1,000名以上という超大規模事務所も少数ながら存在している。

今回の調査の対象となった会計事務所17社は全て税理士法人である。
調査対象の役職員数は最小が84、最大は2,226、平均は458であった(N=16)。
今回の調査の母集団は、会計事務所全体の中では大規模事務所に属すると言える。
今回の調査は、会計事務所の今を、データに基づき、客観的に示すことを目的としているが、母集団を踏まえると、会計事務所全体でも、大規模事務所という1セグメントに特化した調査になっていることは留意いただきたい。

2-3. 有資格者と専門職員

前述のように会計事務所は、税理士資格を持つ専門家が、税務を中核に、会計・税務・財務に関する幅広いサービスを中小企業や個人に提供する事業体を指す。
当然のことながら、会計事務所にとって、税理士資格を持つ専門家(一般に有資格者という)は文字通り不可欠な存在である。
1名以上(税理士法人の場合には2名以上)の有資格者がいなければ会計事務所は成り立たない。

一方で、会計事務所においては、税理士資格を持たない職員(本レポートでは専門職員と表現する)の存在も欠かせないものとなっている。
税理士の業務は税務代理、税務書類の作成、税務相談とされており、これらは有資格者しか行うことはできない(いわゆる独占業務)。
しかし、顧客ニーズの広がりにより、会計事務所が提供する業務は税務代理、税務書類の作成、税務相談より圧倒的に広いものとなっている。
その中で専門職員の役割は、独占業務の補助要員としてはもちろん、独占業務以外に関しても、非常に大きいものになっている。

会計事務所が中小企業に対してサービスを提供する際には、税務申告は提供する価値の中核に存在する。
しかしながら、それは提供する価値の一部にすぎない。
会計事務所が中小企業に対して提供するサービスは、中小企業が健全に事業を継続・成長させるための支援全般にわたる。
税務申告の手前には、月々の経営状況を正確に、タイムリーに可視化するための会計業務が必要である。
また、中小企業経営者の伴走者として、経営コンサルティングサービスを提供することも一般的に行われている。
これらの価値提供にあたっては、専門職員の存在は不可欠である。

会計事務所が個人経営の税務申告書作成業にとどまることなく、法人として組織化され、会計業務や経営コンサルティング業務、さらには、財務アドバイザリーやM&A支援などの専門性の高い業務まで多様な顧客ニーズに応えられるようになったのは、専門職員の活躍あってこそである。
会計事務所と言えば税理士の仕事というイメージは今でも強いが、実際には、専門職員という陰の主役あってこそ成り立っているという認識が必要である。

2-4. 会計事務所と事業グループ

会計事務所は、税務を中核に、会計・税務・財務に関する幅広いサービスを中小企業や個人に提供するが、その際には、会計事務所(税理士法人)を中核としつつも、社会保険労務士法人、司法書士法人など、複数の法人からなる事業グループとして活動していることも多く見受けられる。

事業グループとして活動することによって、顧客である中小企業・個人にとっては、多様なニーズにワンストップで応えてもらえるというメリットが生まれる。
同時に、会計事務所(税理士法人)を中核とした事業グループ側からすると、一顧客から得られる顧客単価を向上させやすいといったメリットがある。

なお、事業グループとして活動している場合には、その中核となる会計事務所の規模は比較的大きめであり、税理士法人であることが一般的である。
一方で、個人経営の会計事務所の場合でも、特定の社会保険労務士事務所や司法書士事務所と連携していることも一般的に行われている。
この場合でも、顧客の観点からは、多様なニーズに応えてもらいやすく、また、会計事務所や社会保険労務士事務所、司法書士事務所の観点では相互送客が見込めるというメリットがある。

本調査では、基本的に会計事務所(税理士法人)を調査の対象としているが、事業グループとして活動している場合には、グループ全体の調査も一部実施している。

※2
2023年発表の経済産業省・総務省「令和3年経済センサス」において国内会計事務所(産業小分類724_公認会計士事務所、税理士事務所の事業所数)の総数は32,246。
※3
産業小分類が724_公認会計士事務所、税理士事務所
全体の目次
  1. 1. はじめに
    1. 1-1. 調査手法
  2. 2. 会計事務所とは(現在地)
    1. 2-1. 税理士と公認会計士(現在地)
    2. 2-2. 個人事務所と税理士法人(現在地)
    3. 2-3. 有資格者と専門職員(現在地)
    4. 2-4. 会計事務所と事業グループ(現在地)
  3. 3. 調査対象会計事務所の基本属性
    1. 3-1. 会計事務所の事業規模
    2. 3-2. 会計事務所の業務
    3. 3-3. 会計事務所のクライアント
    4. 3-4. 会計事務所を構成するメンバー
  4. 4. 会計事務所の総合職の働き方
    1. 4-1. 担当社数
    2. 4-2. 業務の時間配分
    3. 4-3. 勤務形態
    4. 4-4. 労働時間
    5. 4-5. 休日出勤
    6. 4-6. 有給休暇取得率
  5. 5. 会計事務所におけるキャリア
    1. 5-1. 新卒採用と中途採用
    2. 5-2. 未経験者
    3. 5-3. 成長のイメージ
    4. 5-4. 資格取得
    5. 5-5. 研修・教育制度
    6. 5-6. 転勤の有無
    7. 5-7. 離職率
  6. 6. 会計事務所の待遇
    1. 6-1. 新卒入社
    2. 6-2. 中途入社
    3. 6-3. 昇給イメージ
    4. 6-4. インセンティブ
    5. 6-5. 評価制度
    6. 6-6. 福利厚生制度
  7. 7. 他業種との比較
    1. 7-1. 一般企業の経理業務
    2. 7-2. 経営コンサルタント
    3. 7-3. 金融機関
  8. 8. 会計事務所の将来
  9. 9. まとめ
  10. 10. 一般社団法人 会計事務所連携協議会について